11月3日 国際生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の日によせて

Miguel Clüsenar-Godt(元ユネスコ事務局エコロジカル及び地球科学部長、横浜国立大学教授)
渡邉綱男(日本ユネスコ国内委員会 MAB 分科会主査)
松田裕之(MAB 計画支援委員会委員長)

11月3日は、2022年に初めて祝われる「国際ユネスコエコパークの日」です。生物多様性の保全、生態系の回復、自然との調和を図るものとして、1971年にユネスコエコパーク(BR)世界ネッ トワーク(WNBR)が誕生しました。現在、134カ国に738のサイトがあり、日本には10のサイト があります。東アジアユネスコエコパークネットワーク(EABRN)は2つの国境をまたぐサイトを含む7か国に130のサイトを保有しています。東南アジアユネスコエコパークネットワーク (SeaBRnet)は11か国に88のサイトを保有しており、日本政府の支援を受けています。

WNBRは知識の共有、経験の交換、能力の向上、優良事例の推進を通じた協力のための重要な枠組みです。地球の受容力が限界に達している今日、私たちは、自然との調和を重視した生活に戻り、持続可能な社会のためにSDGsの17目標への包括的な取組を実施することが求められています。そのためには、自然を活用した解決策(NbS)を追求するとともに、水資源・気候・陸と海の生態系の 健全さを維持することが必要不可欠です。自然保護、環境、文化あるいは宗教など、あらゆる観点において自然を尊重することは私たちの責任です。

日本が議長国を務めた2010年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択されたCOP決定文書においても言及されているSATOYAMAイニシアティブは、MAB計画とも連携して「自然との共生」のための活動を促進するというものです。ユネスコエコパークは、生物多様性条約が推進する「自然との共生」という理念に合致しており、人類が繁栄し、自然との共生を学び直す場として、今日においてますます重要な場所となっています。

日本では、2016年に国内の全てのユネスコエコパークで構成される「日本ユネスコエコパークネットワーク(JBRN)」が設立され、連携組織として自立的に運営されています。2017年には、イオン環境財団と連携協定を締結し、民間企業との協力によるユネスコエコパークの活動の普及促進に取り組んでいます。

日本の特徴として、地方自治体が中心となってユネスコエコパークを運営しているという点が挙 げられます。自治体が中心であることで、国の補助金・交付金を含めて、毎年の予算の確保ができ、NPOやチャリティ団体が運営する他国の例と比べて、財政基盤が安定していると言えます。また、自治体主催の住民向け公開講座の開催や公報等の出版物等を通じてユネスコエコパークの活動への参画促進・情報提供が可能であるなど、地域住民へのアクセスが容易であることが利点として挙げられます。

日本ではほぼ全てのユネスコエコパークがユネスコスクールと連携しているほか、大学や研究機関との協力関係を構築している多くの事例があります。特にユネスコスクールでは、日本が主導した理念であるESD(持続可能な開発のための教育)を中核とした活動が進められており、生態系の 保全と持続可能な開発の両立を目的とするユネスコエコパークの活動との親和性が高いと言えます。 例えば、志賀高原ユネスコエコパークでは、信州大学と連携してESDの実践の場にユネスコエコパ ークを積極的に活用しています。

また、横浜国立大学による「生物圏保存地域を活用した持続可能な社会のための教育」ユネスコチェアが採択され、MAB/SDGs の教育プログラム、海外研修プログラムをはじめ、ユネスコエコパークを活用した国内外のネットワークづくりが進められています。このユネスコチェアでは、MAB計画やユネスコエコパークの運営に対して若い世代の積極的な参画を促進しています。

現在、国内の4つのユネスコエコパークにおいて、自治体の総合戦略や基本計画等でユネスコエコパークに言及されています。総合戦略や計画、条例等にユネスコエコパークを積極的に組み込むことは、ユネスコエコパークの理念や価値に対する理解を促進させることにも繋がるものとして、非常に重要です。

同じくCOP10で採択された愛知目標の後を受けて、生物多様性条約では2030年までに保護地域とOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)を合わせた面積を陸域、海域の30%以上にする(30by30目標)という野心的な目標が提案され、多くの国の賛同を得ており、本年12月に開催されるCOP15で採択されようとしています。(また、G7各国は世界目標の決定に先立ち、30by30目標を約束しています。)ユネスコエコパークは保護地域により保全された核心地域の外側に、緩衝地域や移行地域があり、これらは保護地域又はOECMの候補となりえます。30by30目標の達成の ために、ユネスコエコパークは保護地域とOECM双方のモデルを示すと同時に、両者の効果的な連携の在り方を提案できると言えます。日本においても、次期生物多様性国家戦略の素案の中でユネスコエコパークの活用について触れられており、国立公園などの国内の保護地域制度やOECMとの更なる連携が期待されます。

全てのユネスコエコパークが、科学的根拠に基づく管理計画を策定し、持続可能な人間生活と自然保護の両立のための地域的解決策が試され、優良実践が適用されているところです。生物多様性、クリーンエネルギー、気候、環境教育、水、廃棄物管理などは、科学的な調査やモニタリングによって解決し得るものです。自然災害や感染症などによる大きな変化に立ち向かえる社会を創り出していくことも重要な課題です。ユネスコエコパークは、上記の活動を通じて、SDGs、30by30目標、国連生態系回復の10年などの国際的な取組に貢献し、自然を活用した解決策による持続可能な社会の実現を目指します。