中村心寧さんのユネスコ本部インターンシップレポート(令和7年3月12日)

ユネスコ本部から見る日本のMABユースの展望-本部での研修を通して-(中村心寧)

はじめに

私は昨年10月末から、フランス・パリにあるユネスコ本部にてインターンシップを行っています。この研修は、文部科学省とユネスコ本部が令和6年に共同で新設したプログラムです(詳細:資料1-6_ユネスコ研修プログラムについて)。約3か月間の経験と、それを通じて感じたことを報告します。

ユネスコの概要・組織

ユネスコは多くの日本人に親しまれており、特に世界遺産で有名な国際機関ですが、その中には多様な部署があり、活動は多岐にわたります。ユネスコの使命は「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築く」ことであり、その活動は主に教育・科学・文化の三つの分野を通じて行われています(ユネスコ憲章:https://www.mext.go.jp/unesco/009/001.htm)。 私が所属している部署は、「自然科学局」の中の「生態学・地球科学部(EES)」の「MAB セクション」です。現在、EES 内にはMAB セクションとジオパークセクションがあり、まもなく先住民族に関するセクションも加わる予定です。これにより、先住民の知恵や文化を尊重した生物文化多様性の保全活動がさらに強化されることが期待されます。MAB の活動をする上でも、MAB 計画も「戦争の悲劇を繰り返さない」という理念のもとで推進されていることを心に留めておくことが大切だと思います。

インターンシップでの仕事内容

私はこれまでに三つの業務を担当しました。

1: BRの登録申請書・定期報告書のデジタル化プロジェクト

 現在は各BR がWordやPDF で提出している申請書や報告書を、専用のオンラインフォームに入力してもらうことで、データの集計や分析が効率化され、関係者が情報にアクセスしやすくなることを目的としています。その新しい回答フォームが機能するかどうかをテストしました。

2:世界各地の自然保護サイトの重複地点リストの作成

 複数の自然保護サイト(BR、ジオパーク、世界遺産、ラムサールサイトなど)の範囲が重複している地域において、その地点を明確にすることで、サイト運営の効率化が期待されます。

3: MAB プログラム開始以来50 年分のBR に関する資料の整理

 昨年ごろから進められているアナログ資料のデジタル化作業の一環として、その資料を分類・ラベリングする作業を担当しています。膨大な数の書類があり、時には気が遠くなるような作業ですが、過去の記録がデジタル化され、人類の共通財産として活用される一助となることに意義を感じながら取り組んでいます。ユネスコの戦前からのアーカイブが劣化している現状を踏まえ、そのデジタル化はMAB だけでなく、多くの他部署でも進められているトレンドです。

日本のMABユースについて

ユネスコは“Youth” を最優先事項の一つとして掲げていますが、私が研修を始めてからの3 か月間、実際に“MAB Youth” という言葉を耳にする機会はあまりなかったのが現状です。しかし、今年1月に新たに加わった同僚がMAB Youthを担当することになったため、今後は動きが出てくると思われます。

 このニュースレターを執筆するにあたり、そのMAB Youth 担当者に「MAB はユースの参加に対してどのような期待をしているのか。ユース活動に関して課題はあるか」と質問しました。回答として「MAB はユースを単なる参加者ではなく、リーダーや革新者として捉えている。しかし、ユース参加が不十分な場合があり、リソースやアイディアを発信する場が不足しており、参加者の定着率にも課題がある。様々なバックグラウンドの若者を巻き込んでいきたい」と述べられました。さらに、「日本はMAB の枠組みの中でどのような役割を果たすべきか」という質問には、「日本には、自然への尊重と技術的革新を融合させたユニークなアプローチで世界的な行動を呼び起こしてほしい」との回答を得ました。

 私も、日本の「自然の恩恵も脅威も受け入れ、共に生きる」という考え方は独自の素敵な文化だと思っています。この文化と日本の技術を融合した行動を起こせたら、世界のBRを牽引できるのではないかと思います。しかし、生物多様性が豊かな環境で生活し、それを当たり前に享受している日本人にとって、「生物多様性に恵まれている」という自覚を持つことは容易ではありません。日本のユースが、自分たちは自然に恵まれた環境にいると気づくことが、日本のMAB 活動を進める上での第一歩となると考えます。

 また、現在国際的な環境に身を置く中で、日本における「ユース」の概念が他国とは異なることに気づきました。日本では、人生の中で「学生」と「社会人」という大きな区切りがあり、学校を卒業して就職した社会人が「自分はユースだ」と感じてユースとしての行動を自ら起こすことは多くないと思います。しかし、他国では働き方が異なり、30 歳前後の人々も「まだ人生を模索している期間」として捉えていることが多いようです。このような文化的背景を考慮し、日本のユースが自分をユースの一員と自覚し、発信・行動する重要性を認識できるようにすることが大切だと感じています。

 最後に、日本ならではの課題として、日本のBR 関係者の中では40、50 代が「若手」とみなされる現状があると聞きます。生物学だけでなく多様なバックグラウンドを持つ真のユースを巻き込み、BRに関わる人々の裾野を広げる取り組みが急務であると感じます。この課題を解決できれば、日本は高齢社会におけるBRのモデル国として世界に貢献できるのではないでしょうか。

 残り9 カ月のインターンシップの中で、今後もユネスコ本部の動向に注目しつつ、世界中の様々なユースたちと交流し、日本のBR でできること、また日本のユースが果たせる役割を探求していきたいです。